複雑な再会
今回は最近のできごとをひとつ。
去年の冬、私は一人のおばさんを拾った。
その日は大雪で、そして時間は真夜中、すでに12時をまわっていた。
おばさんは道路に倒れていた。
倒れているおばさんの上に降り積もる雪。
おばさんはかまくらのようになっていた。
車で通りかかった私は、路肩に車を止め、「おばさん、ここで寝たら死ぬよ?」と声をかけた。
すると、真っ赤な顔で私を見て「優しくしてくれてありがとぉぉ〜」と手にキスをしてきた。
…明らかに酔っ払いだ。
しかし放っておくわけにもいかず、車に乗せた。
私:「家、どこ?送っていくから。」
おばさん:「…あんた、警察の人だべ?」
私:「いや、違うよ。塾の先生。」
おばさん:「わぁ〜だっきゃ何も悪いことしてねえや。」
私:「うん。わかった。だから家どこ?なんか目印とかないの?スーパーとか、銀行とか。」
おばさん:「銀行!?わぁ〜だっきゃ銀行強盗なんかしてねえよ。」
私:「…うん、そうだろうね。で、家どこ?」
おばさん:「こうちゃ…。」
私:「ん?紅茶飲みたいの?」
おばさん:「いや、あんたさ紅茶飲ませてぇ。優しくしてくれでほんとにありがとうぅ!」
私:(早く帰りたい…。)
こんな調子でどんどん時間が過ぎていく。
そうしてやっと、『○○温泉の近くだ』という情報を聞き出し、その近くまで送っていった。
そして、○○温泉近く。
私:「おばさん、この辺?」
おばさん:「もうちょっと先。まだまっすぐ。」
私:「わかった。」
そしてまっすぐ進む。
私:「この辺?」
おばさん:「んだ。この辺だ。」
私:「ほんと!じゃあ、ここで止まるね。」
「ほんとにありがとう。おめえさ紅茶飲ませてぇ。」と言いながら車を降りたおばさん。
そして上機嫌で車を降りた直後、
おばさん:「…ここどこだ?」
あのときは本気で泣きそうになった。
そして先日、そのおばさんにコンビニで再会した。
ワンカップ片手におばさん登場。
しかも、コンビニのごみ箱の前で必死にワンカップのビニールをはがしていた。
せめて家まで待とうよ、おばさん…。
おばさんが無事でほっとしたような、ワンカップ飲んでる姿が残念なような、おもしろいような、複雑な気持ちだった。