英進塾_先生ブログ

英進塾の講師によるブログです

康家の白エプロン


全くあのグルメ番組という奴は。何が腹立つってあの食べた後の御託。やれコクがあって、それでいて爽やかで、だの濃厚な味わいだの、とやかましい。旨いメシが不味くなる。言葉を徒に弄びすぎるのだけれどもいかんせん語彙が欠しいものだから、どこかで借りてきたような表現でお茶を濁そうとするのであるが、したり顔でそれをしやるものだから鼻に付く。想像力の欠片もない。鼻先がムズムズ痒くなる。黙って喰え、と一人テレビに怒鳴り散らすこともしばしば。非テレビ出演者もそれに毒されているような気がしてならない今日この頃。飯屋で料理批評をぶっているのを見聞きすると、鼻からうどんがでそうになる。

全く飯屋に行列とは。寒い思いをして、何時間も列をなして待ち待ちして飯を喰うなんて、贅沢な時間の潰し方もあったものだ。それに「頑固親父のラーメン屋」の類も噴飯物だ。客に「正しい」飯の喰い方を指南して、無駄口を叩かず喰え、間違った振る舞いをするとぎろり睨めつける等店の中はさながら通夜否通夜でももう少ししゃべるだろう有様。ご冗談でやっているのでしょう?と正面きって聞きたくなるけれども、まぁそれさえ店の戦略と考えられんことも無いので、まあいいか。

だいたいラーメンなぞジャンクフードの類。その汁を全て飲み干そうものなら一発で血圧が上がるぐらいのほうが旨いに決まってる。上品なスープなどでなく、飲み干すと出所不明な成分で舌がビリビリと痺れるくらいの不健康な汁。健康志向のために表現をやわらかくしようというのか敷居を低くするためなのかよくわからないがラーメンを「らあめん」と平仮名で表記している店も多い。たいてい不味い。
ところがある日。妻がインターネットポータル「yahoo!」で、青森のラーメンランキングなるものを見せてきた。どこが一位になっているのかどれどれ見てみようじゃないか。



一位「康家」




やす、いえ?2位以下は、まあ異論はあるが有名どころ。ところが一位はまったく名も知らぬ。元来疑り深い私である。ヤフーのランキングも信用していない。大方、身内からの組織票でトップになっているのだろう。行ってたまるかそんな店。と言い乍らもコソコソ店を探して偵察しに行くのが私のいい所。
紆余曲折。其の店はやっているかやっていないか微妙な寂れ具合のパチンコ屋の駐車場の隅にあった。民家の一階といった趣で汚い店構え、のれんが乱雑にガラス戸奥の視界を遮っている。こりゃあダメだ。やっぱりあれは組織票、ちょっと若い店主が仲間や家族に呼びかけて、うちのラーメン屋を一位にしてくれよう、と頼んで回ったに違いない、ああまったく時間の無駄遣い、やれやれ。


ここで事が転ずる。あんな店もう行かないとは言い乍ら、矢張りウム営業している様を見ずして判断は出来かねよう、とてもう一度しつこく行ってみるのが私のいい所。我が目を疑った。2009年の12月、雪はまだ積もっていなかったとはいえこの寒い中、大の大人が店の外寒空の下でボロいすに腰掛けて、行列をなしていたのだ!どうやら前回私が来たときも、麺の品切れにより早く閉まったものらしい。がぜんあのランキングが真実味を帯びてきた。いやいやしかし行列をして並ぶ輩と一緒にされるのも業腹だ。ぶらりと入ってズルリと啜りぬるりと帰る、それでいい。
3度目の訪問にして、ようやく店に入る。まあ恐る恐る。それだけ汚い店構え。旨そうな気配がしない。なあに、店主が箸の上げ下ろしに文句をつけようものなら、ご冗談でいっているのでしょう、たかがラーメンなのに、といって出てきてやるさと肩を怒らせ風を切り、いざ康家(こうや)の店内へ…。所狭しと貼られた矢沢のポスター。E.YAZAWAだらけにびっくり。店主がアメリカン・カジュアル。所謂アメカジ。ジーンズにカレッジプリントのTシャツ、メッシュキャップ、白エプロン。



手前がチャーシュー麺特盛り。奥は中盛り。

旨い。津軽の煮干焼き干しの出汁、癖になるビリビリ感。これは一位だ。店も店主も気取りが無くて気持ちいいじゃないか。私の後に客が一人入って来、それで麺が無くなった。爾来、足繁く通っている。閉店時間も延びて、通いやすくなったようだ。新幹線がやって来、さまざまな地元産物の掘り起こしとブランディングが進んでいく中で、津軽正統派として大物になるのでは、と密かに期待している。

また、アンケートに答えるともらえるラーメンサービス券が2回も当たったものだから、これはもうロイヤリティーが付いてしまった。堀内先生が紹介していたマルカイ、ひらこ屋、マタベエも大好きだが、やはり私の中での1位は相変わらず「康家」である。